テンパるは、今では、気持ちに余裕がなくなってあわてることや、せっぱつまって頭が真っ白になることを表す、くだけた言い方です。学校や仕事の場面でもよく使われますが、もともとは日常語ではなく、麻雀から広まった言葉です。
この言葉のもとになったのは、聴牌(テンパイ)です。テンパるは、このテンパイに、日本語で動詞を作る「る」がついてできた形です。
聴牌は、中国語から入った麻雀の言葉で、あと一枚必要な牌が来れば上がれる状態をいいます。つまり、もう少しで上がりに届く、きわめて終わりに近い場面を表す呼び名でした。
この語の歴史を考えるうえで大切なのは、聴牌がかなり早い時期から、麻雀の外にも広がっていたことです。1931年(昭和6年・昭和時代前期)の『モダン語漫画辞典』には、聴牌が「準備がほぼ済むこと」の意味でも使われていたことが残っています。
ここから分かるのは、もとの感じが、ただ「あわてる」だけではなかったということです。まずは「もう一歩ででき上がる」「仕上がりの手前まで来ている」という意味があり、そののちに、ぎりぎりの緊張や追いつめられた感じが前に出るようになりました。
実際に、今の辞書ではテンパるに三つの意味が載っています。第一は麻雀で聴牌になること、第二は物事がほとんどでき上がること、第三は俗に、余裕がなくなってせっぱつまることです。
この並びを見ると、意味の移り変わりがとてもよく分かります。あと一枚で上がれる状態は、見方を変えれば「完成直前」ですが、別の見方をすれば「あとがない」「気持ちが張りつめる」状態でもあるからです。
そのため、テンパるは、はじめは麻雀の場で使われる専門の言い方だったのに、しだいに日常の会話に入りました。そして、予定が詰まったとき、急に人前に立たされたとき、失敗できない場面で気が動転したときなどにも使われるようになりました。
今では、もとの麻雀の意味を知らなくても、「テンパってる」というだけで、多くの人に「あわてて余裕がない様子」が伝わります。けれども言葉の根には、「終わりに近いところまで来ている」という、もう一つの意味が残っています。
表記は、ふつうカタカナでテンパると書かれますが、辞書には「聴ぱる」という書き方も見えます。漢字をまじえた形は、もとの麻雀語とのつながりを示す表記で、カタカナの形は、日常語として広まったあとの読みやすい形だといえます。
テンパるの由来をまとめると、中国語由来の麻雀語である聴牌から生まれた言葉です。あと一枚で上がれるという「完成直前」の意味が、やがて「ぎりぎりで余裕がない」という意味へ広がり、今の「あわてて頭がいっぱいになる」という言い方になりました。専門の場の言葉が、気持ちの動きを表す日常語へ育った、分かりやすい例の一つです。
主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『デジタル大辞泉』
・『モダン語漫画辞典』
・『中日辞典 第3版』










































































































