パクるは、今では、物を盗むことだけでなく、他人の文章や絵、考え方などをそのまま使ってしまうことにも広く使われる言葉です。くだけた言い方ですが、意味の中心には「人のものを勝手に取る」があります。
この言葉は、外から入った外来語ではなく、日本語の中でできた俗な言い方と考えられています。もともと改まった場のことばではなく、仲間うちの隠語のようなところから広がった表現でした。
語源として有力なのは、「ぱくっ」と一気に口へ入れる感じを表す擬態語のパクです。魚がえさをすばやくのみ込むような動きや、大きく口を開けて食べる感じが土台にあり、そこへ動詞を作る「る」がついて、パクるという形になったと考えられています。
この成り立ちを見ると、パクるが「盗む」の意味になった道筋も分かりやすくなります。つまり、品物をすばやく自分のものにしてしまう様子を、「ぱくっと取る」感じになぞらえて言うようになったわけです。
古い例としてよく知られるのは、1914年(大正3年・大正時代)の松崎天民『社会観察万年筆』です。そこでは、当時の通りことばの一つとして、盗むことを「パクル」と言うことが書かれており、このころにはすでに若者の俗語として通じていたことが分かります。
名詞の形では、1925年(大正14年・大正時代)の『現代用語辞典』に「パクリ」が見えます。ここでは、はっきり「かっぱらい」の意味の言葉として載っており、動詞のパクると名詞のパクリとが、近い時期に並んで使われていたことが確かめられます。
こうした初めの使い方から考えると、パクるは、まず「盗む」「かすめ取る」という意味で育った言葉でした。今では「盗作する」の意味で使うことが多くても、出発点は店先の品物や金品などを取ることにあったのです。
そのあと、この言葉は「人の作品やアイデアを盗む」という意味へ広がりました。物を盗むのも、文章や絵をそのまま使うのも、「人のものを自分のものにしてしまう」という点では同じなので、意味が移っていったのは自然な流れです。
さらに、パクるには「犯人を逮捕する」、あるいは受け身の形で「逮捕される」という意味もあります。これは、盗みをする側やその周りの言い方として広まったもので、自分たちが警察に身柄を取られることを逆向きに表した言葉だと考えると分かりやすいでしょう。
この意味の古い例として、1956年(昭和31年・昭和時代)の井上友一郎『私の太陽』が挙げられます。そこでは、だれかが「パクられたろう」と言われており、今でも耳にする「逮捕される」の言い方が、戦後にはすでに書き物に現れていました。
表記は、ふつうカタカナの「パクる」がよく使われますが、辞書ではひらがなの「ぱくる」も見られます。決まった漢字表記を持たないのは、この言葉が古い漢語や和語ではなく、擬態語から生まれた口語的な表現だからです。
パクるの由来をまとめると、「ぱくっ」とすばやくのみ込んだり取りこんだりする感じを表す擬態語のパクに、動詞を作る「る」がついてできた言葉です。そこから、品物を盗む意味が生まれ、さらに作品の盗用、また受け身では逮捕される意味へと広がっていきました。軽い響きの言葉ですが、その中には「すばやく取って自分のものにしてしまう」という、かなりはっきりした動きの感じが今も残っているのです。
主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『現代用語辞典』
・松崎天民『社会観察万年筆』
・井上友一郎『私の太陽』
・増井金典『日本語源広辞典』










































































































