バンタム級は、今ではボクシングやほかの格闘技で使う体重別階級の名として、よく知られている言葉です。けれども、この言葉の中心にある「バンタム」は、もともと人の体重を表す言葉ではありません。
もとの英語は bantamweight です。ここで weight は「重さ」ですから、言葉全体としては「バンタムの重さの階級」という形になります。つまり、先にあったのは「級」ではなく、「バンタム」という名のほうでした。
この bantam は、小型のニワトリ、いわゆるチャボの仲間を表す英語です。日本語の辞書でも、バンタムはチャボに似た小さなニワトリの品種として説明されており、そこからバンタム級の語源をたどることができます。
さらにさかのぼると、bantam という名は、インドネシアのジャワ島西部の地名、バンタムに由来するとされています。現在はバンテンと呼ばれる地域で、昔は港町として栄えた土地です。
この地名が小型のニワトリの名になったのは、東南アジア方面からヨーロッパへ伝わった小さな鶏が、その土地の名で呼ばれるようになったためだと考えられています。ただし、その鶏そのものがもともとその土地の在来種だったかどうかまでは、はっきり一つに決めて言えないところがあります。
こうして、小さな鶏を表す bantam という言葉ができました。そのうえで、英語では小柄な人や、体は小さくても気の強い人を bantam とたとえて呼ぶことがありました。小さいけれど勇ましい、という感じが、この言葉には早くからあったのです。
そこから生まれたのが bantamweight です。つまり、バンタム級は、ただ「小さい階級」というだけでなく、小柄な闘鶏を思わせる呼び名からできた階級名だということになります。ボクシングの階級名らしい、少し生きものの感じを残した言葉です。
英語の bantamweight は、1884年(明治17年・明治時代前期)にはすでに使われていたことが分かっています。19世紀の終わりごろには、英語の世界でこの階級名が定着していたわけです。
日本語では、「バンタム級」という形が広く見える早い例として、1940年(昭和15年・昭和時代前期)の田中英光『オリンポスの果実』があります。そこでは「バンタム級の世界ベストテンに数へられた名選手」と書かれており、このころには日本でもボクシング用語として自然に通じていたことが分かります。
また、「バンタム」そのものを小型の鶏の名として使う例は、1930年(昭和5年・昭和時代前期)の『モダン辞典』に見えます。つまり日本語では、鶏の名としてのバンタムと、階級名としてのバンタム級とが、近い時期に知られるようになっていったようです。
表記の上では、外来語の部分をカタカナで写し、日本語の階級名として「級」を添えた形になっています。このため、もとの英語の姿をある程度残しながらも、日本語のスポーツ用語として分かりやすい形にまとまっています。
バンタム級の由来をまとめると、まずジャワ島西部の地名バンタムがあり、その名が小型のニワトリの呼び名になり、さらにそこから小柄な格闘家の階級名 bantamweight が生まれ、日本語で「バンタム級」となりました。いま耳にするとただのスポーツ用語のようですが、その奥には、地名、鶏の名、たとえ、階級名という長い道筋が重なっているのです。
主な参考文献
・『デジタル大辞泉』
・『精選版 日本国語大辞典』
・Oxford Advanced Learner’s Dictionary
・Merriam-Webster Dictionary
・田中英光『オリンポスの果実』
・『モダン辞典』










































































































