モテるは、今では、異性に好かれることや、人から人気を集めることを表す言い方として広く使われています。ふだんはカタカナで書くことが多いですが、もともとの形は「持てる」です。
この「持てる」は、辞書では古くから二つの流れを持つ言葉として扱われています。一つは「保たれる、維持される」で、もう一つが「もてはやされる、厚く扱われる、ちやほやされる」という意味です。
ここで大切なのは、モテるが、初めから「自分から相手を引きつける」というより、「相手の側から好意を向けられ、よく扱われる」という感じを持っていたことです。今でも「人にモテる」と言うとき、自分がだれかを好きになるより、相手から好かれる意味が前に出るのは、その古い形とよくつながっています。
かなり古い例として、1753年(宝暦3年・江戸時代中期)の洒落本『跖婦人伝(せきふじんでん)』に、「能あそぶ客は、もてるにこころなし」とあります。ここでは、遊び方のうまい客が、まわりから気に入られてよく扱われる、という意味で使われています。
さらに1770年(明和7年・江戸時代中期)の洒落本『遊子方言(ゆうしほうげん)』でも、通人ぶった男は嫌われ、かえっておとなしい若い男が「もてる」という筋書きが見えます。このことから、江戸時代にはすでに、遊里の人間関係の中で「もてる」が自然な言い方になっていたことが分かります。
こうした古い使われ方から考えると、モテるの由来は、遊里で客が遊女から「もてはやされる」ことと結びつけて説明されることが多いです。細かな成り立ちを一つに言い切るのはむずかしいものの、少なくとも江戸の遊里ことばと深く関わって広まった、という筋はかなり確かです。
はじめのころのモテるは、今のように男女だれにでも広く使う言葉というより、まず遊里で客が歓迎されることに近い意味を持っていました。そこからしだいに、女性に好かれる男性、さらに人から好意を持たれる人全体へと意味が広がっていったと考えられます。
そのため、モテるの中身は、ただ「恋愛に強い」ということだけではありません。人に気に入られる、場の中で歓迎される、ちやほやされる、といった意味が重なって、今の「人気がある」という感じになっていったのです。
表記について見ると、今では恋愛や人気の意味ではカタカナの「モテる」がよく使われますが、「持てる力」「持てる者」のような別の意味では漢字の「持てる」がふつうです。つまり、同じ音でも、意味の違いに合わせて書き分けることが、日本語の中で自然に行われるようになりました。
こうして見ると、モテるは、ただ新しい若者ことばとして生まれたものではありません。もとは「持てる」と書かれ、江戸時代の遊里で、人からちやほやされること、よく扱われることを表しながら育ってきた、かなり歴史のある言い方です。
モテるの由来をまとめるなら、「持てる」という古い動詞の形から出て、まずは「もてはやされる」「厚く扱われる」という意味を持ちました。そして、遊里での人間関係の中でよく使われるうちに、「異性に好かれる」「人気がある」という今の意味へ広がっていったのです。軽い響きの言葉に見えても、その中には、相手から好意を向けられるという受け身の感覚が、今もきちんと残っています。
主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『デジタル大辞泉』
・『跖婦人伝』
・『遊子方言』
・杉本つとむ『語源海』




















































































































