なまえ【名前】の語源・由来

名前は、今では人の氏名にも、物や事がらの呼び名にも広く使う、ごく身近な言葉です。けれども、初めから今の形で使われていたわけではなく、もとは「名」という、もっと古くからある語が土台になっています。

「名」は、人や物をほかと区別するための呼び方を表す語として、非常に古くから見えます。それだけでなく、評判や名誉、表向きの名目まで表せる、意味の広い言葉でもありました。

古い例では、『古事記』に、登場人物の呼び名を示す形で「名」が見えます。また、『万葉集』にも、酒の名、氏の名、よい名声というように、人の名だけでなく、物の呼び名や評判の意味でも使われています。

これに対して、「名前」という二字の形は、今わたしたちが感じるほど古い形ではありません。コトバンクに引かれた用例では、1720年(享保5年・江戸時代中期)の浄瑠璃『井筒業平河内通(いづつなりひらかわちがよい)』に、表向きの名目という意味で「名まへ」が見えます。

さらに、人の氏名、または姓に対する名という意味の早い例としては、1731年(享保16年・江戸時代中期)の浮世草子『世間手代気質(せけんてだいかたぎ)』が挙げられています。ここでは、商いをやめるので名前を変える、という文脈で使われており、「名前」が人の呼び名を表す語として定着していたことが分かります。

つまり、日本語では、まず「名」が長く使われ、そのあとで「名前」という形が広まっていった、と考えるのが自然です。古い日本語の中心にあるのはあくまで「名」で、「名前」はそれを言い表す形の一つとして後からはっきりしてきた言い方なのです。

また、「名前」は初めから意味が一つだったわけでもありません。江戸時代の用例では、氏名のほかに、名声や名目の意味でも使われており、今の「名前」よりも少し広い意味あいを持っていました。

その後、1889年(明治22年・明治時代)の『細君』には、家や物事の呼び名という意味の「名前」が見えます。こうして近代に入るころまでに、「名前」は人にも物にも使える、今に近い便利な語として広がっていきました。

では、「名前」の後ろの「前」は何かというと、ここははっきり一つに決めにくいところです。古くからよく知られているのは、「前」が人に敬意を添える語に通じると考える説明ですが、それだけで完全に言い切るのはむずかしく、役割が十分に明らかでないとする見方もあります。

「前」が敬意にかかわる語として使われていたこと自体は、たしかめられます。たとえば「御前」は、もともと神仏や貴人の前を敬っていう語で、そこから相手そのものへの敬称にもなりましたし、「前」を接尾語として人に添え、敬意を表す例も辞書に残っています。

そのため、「名前」は、古くからある「名」に、何らかの添え語としての「前」が加わってできた形と考えるのが無理のない説明です。ただし、その「前」をぴたりと一語で説明するのはむずかしいので、ここは断定しすぎないほうが、かえって正確です。

まとめると、「名前」は、古代からある「名」を土台とし、そのあとに「前」が添わってできた言い方です。もともとの中心は「名」であり、「名前」という形は江戸時代の文献にはっきり現れ、氏名・物の呼び名・名声・名目などの意味を経ながら、しだいに今のような広い日常語になりました。

主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『デジタル大辞泉』
・『古事記』
・『万葉集』
・『井筒業平河内通』
・『世間手代気質』
・『細君』
・『日本大百科全書(ニッポニカ)』

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