「むべなるかな」は、今の言葉に直すと「なるほど、そのとおりだ」「もっともなことだなあ」という気持ちを表す古い言い回しです。強く言い返すというより、事情を聞いて納得したときの、しずかな感心や同意がこもる表現です。
この言い回しは、ばらばらの三語がたまたま並んだものではありません。もとは「うべなり」という、もっともだ、なるほど、という意味の言い方があり、その連体形「うべなる」に、感動を表す助詞「かな」が付いてできた形です。
いちばん大もとの中心になるのは、「うべ」という副詞です。これは、後に続く事柄を、道理にかなっていると受けとめて、「なるほど」「いかにも」と肯定する気持ちを表しました。
この「うべ」は、古い歌にも見えます。『万葉集(まんようしゅう)』には、山や川の清らかさを見て「なるほど」と感じる心を表す例が残っており、すでに8世紀ごろには、この語が納得や同意の気持ちを表す言葉として使われていたことが分かります。
その後、平安時代以後になると、「うべ」と並んで「むべ」と書く形がふつうになっていきます。これは、意味が別の言葉になったというより、昔の書き表し方のゆれによるもので、「うべ」と「むべ」は同じ言葉の姿の違いと考えてよいものです。
そのことがよく分かるのが、『古今和歌集(こきんわかしゅう)』の文屋康秀の歌です。「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ」とあり、ここでの「むべ」は「なるほど」という意味で使われています。秋風が草木をしおれさせるから、山風を「あらし」と呼ぶのももっともだ、という納得の心です。
「むべなるかな」という形そのものも、古い訓読資料に見えます。『日本書紀(にほんしょき)』では「うへなるかな」と読ませる例があり、この形が、かなり早い時代から感動をこめた決まり文句として用いられていたことがうかがえます。
ここで大切なのは、「むべなるかな」の意味が、ただ「正しい」というだけではないことです。相手の話や目の前の事情を受けて、「そう聞けばたしかにそうだ」と心が動く、その納得のひびきまで含んでいます。だから、少しかたい言い方ではありますが、単なる賛成よりも、理由がのみこめたときの感じに近い表現です。
また、この言い回しは、もともと「うべなるかな」で、それが後に「むべなるかな」とも言われるようになったものです。ですから、現代では「むべなるかな」の形がよく知られていますが、古い形をたどると「うべ」が先にあると考えるのが自然です。
今では日常会話でしょっちゅう使う言葉ではありませんが、古典の引用や、少し格調をもたせた文章では生きています。意味を知っていると、古い歌や文章の中で、作者がただ説明しているのではなく、「なるほど」と心を動かしていることまで読み取りやすくなります。
つまり、「むべなるかな」は、「うべ」という納得の副詞から生まれた「うべなり」に、「かな」が添わってできた感動の言い方です。古い形の「うべ」と、後に多くなった「むべ」とを見分けながら読むと、この表現が、長い年月の中で受けつがれてきた、上品で含みのある日本語だということがよく分かります。
主な参考文献
・『デジタル大辞泉』
・『精選版 日本国語大辞典』
・『万葉集』
・『古今和歌集』
・『日本書紀』
























































































































