「仕事」の語源を調べると、「仕える」という字の印象から意味を考えてしまいがちです。
しかし、辞書ベースで確認すると、語の成り立ちと漢字表記の歴史はもう少し丁寧に分けて理解する必要があります。
この記事では、「仕事」という語を「語源」「表記」「意味変化」の3つに分けて整理し、誤解しやすいポイントまで含めて解説します。
先に結論を押さえておくと、語源は「し(為)+こと(事)」で、「仕」は表記上の問題として扱うのが基本です。
目次
結論:仕事の語源は「し(為)+こと(事)」
辞書では、「しごと」の「し」はサ変動詞「す(する)」の連用形と説明されています。
つまり語の芯は「すること」で、これが出発点です。
ここに「事(こと)」が結びついて「しごと」という語形になり、のちに「職業」などの意味へ広がっていきました。
まずは「仕事=行為・すること」が原点だと押さえると、後の話が理解しやすくなります。
「仕」はなぜ使われるのか:当て字説と語誌の見方
デジタル大辞泉では「仕」は当て字とされています。
一方で、精選版日本国語大辞典の語誌は、これを単純な「字音シの借用」だけで説明することに慎重です。
理由として、和語の表記で「仕」が広く使われる例(仕打ち・仕立て・仕舞う)や、江戸期に「する」を「仕る」と書く例が挙げられています。
そのため、「仕=ただの飾り」と決めつけるより、和語表記の慣習の中で定着した字と見るほうが実態に近い、というのが辞書語誌のニュアンスです。
表記の歴史:「為事」と「仕事」はどう入れ替わったか
「仕事」という表記は、室町時代中期の『文明本節用集』にすでに見られます。
ただし江戸時代の辞書では「為事」表記も併存しており、表記はまだ固定していませんでした。
その後、明治時代以降になると「仕事」表記へほぼ統一されていきます。
つまり「為事→仕事」は一夜で置き換わったのではなく、一定期間の併存を経て定着した流れです。
意味はどう広がったか:年代で見る「仕事」
語の意味は、最初から「職業」だけを指していたわけではありません。
精選版日本国語大辞典では、1209年の用例で「すること・したこと」の意味が確認でき、1603-04年『日葡辞書』では「つとめ・奉公・手作業」といった職業寄りの意味が示されています。
さらに近世〜近代には、「職業(しごと)」「縫物(しごと)」のように、漢字を添えて意味を明確化する書き分けも見られます。
語源を理解するときは、語の形だけでなく、この意味の拡張プロセスもセットで見ることが大切です。
| 時期 | 主なポイント | 位置づけ |
|---|---|---|
| 室町中期 | 「仕事」表記が確認される | 表記の早期例 |
| 江戸時代 | 「為事」も併存 | 表記が未固定 |
| 明治以降 | 「仕事」にほぼ統一 | 現代表記の定着 |
| 1209年用例 | 「すること・したこと」 | 原義側 |
| 1603-04年用例 | 「つとめ・奉公・手作業」 | 職業義への展開 |
(上表は辞書の語誌・用例情報を要約したものです。)
よくある誤解:「仕事=仕えること」なのか
漢字だけを見ると、「仕」は「仕える」を連想させるため、この解釈は生まれやすいです。
ただ、語源説明の中核は「し=す(する)の連用形」であり、まずは語形の成り立ちを優先して捉えるべきです。
また、辞書語誌は「仕」を単純な字音借用だけで説明することにも留保を置いています。
したがって、「仕事=仕えること」と一義的に断定するより、語源(し+こと)と表記史(仕の定着)を分けて理解するのが妥当です。
「仕事」と近い語の違い
「仕事」と似た語を分けると、語感の混乱が減ります。
「職」は担当する務めや職業の意味が中心で、役割や地位のニュアンスが強い語です。
一方「仕事」は、行為全般・職業・所業など、多義的に使われる幅広い語です。
日常会話で「仕事」が便利なのは、この意味の守備範囲が広いからだといえます。
まとめ
「仕事」の語源は、「し(す・するの連用形)+こと(事)」という形で説明できます。
表記としての「仕」は、当て字という説明がある一方で、語誌では単純化しすぎない見方が示されています。
さらに、室町〜江戸〜明治にかけた表記の定着と、1209年・1603-04年の用例に見える意味変化を押さえると、「仕事」という語の輪郭が立体的に見えてきます。
語源だけを一行で覚えるより、表記史と意味の広がりまで合わせて理解しておくと、言葉の使い分けがぐっと正確になります。

































