おいしい【美味しい】の語源・由来

美味しい(おいしい)は、今では、食べ物や飲み物の味がよいことを表す、ごく身近な言葉です。ふだんはひらがなで書くことも多いのですが、成り立ちをたどると、かなり古い日本語の流れにつながっています。

この言葉は、もともと「いしい」という言い方に、ていねいさを添える「お」が付いてできたものです。ですから、形としては「お」+「いしい」という組み立てです。

では、その「いしい」はどこから来たかというと、さらに古い形容詞「美し」と書く「いし」にさかのぼります。今の「美しい」は「うつくしい」と読みますが、昔は同じ字に「いし」という読みもありました。

この古い「いし」は、今の「美しい」より意味が広く、「よい」「りっぱだ」「見事だ」といった意味でも使われました。その中に、食べ物の味がよい、つまり「おいしい」という意味も入っていました。

1278年ごろ(弘安元年ごろ・鎌倉時代)の『弁内侍日記(べんのないしにっき)』には、「いしい」が「よい」「見事だ」という意味で使われています。まだこのころは、味だけに限られた言葉ではなく、広くほめる気持ちを表す言い方だったことが分かります。

味のよさを表す用法は、14世紀後半(南北朝時代)の『太平記(たいへいき)』にも見えます。ここでは「いし」が、食べ物について「味がよい」という意味ではっきり使われており、今の美味しいにつながる意味がすでに育っていました。

その後、中世になると、「いし」が「いしい」の形でも言われるようになります。さらに、宮中に仕えた女性たちが用いた、やわらかく上品な言い方の中で、この「いしい」がよく使われ、それに「お」を付けた「おいしい」が広まっていきました。

このため、美味しいには、はじめから少していねいで上品なひびきがあります。今でも「うまい」より「おいしい」のほうが、やわらかく品のある言い方に感じられるのは、こうした育ち方と関係があります。

今の形の「おいしい」がはっきり見える早い例としては、1775年(安永4年・江戸時代中期)の洒落本『後編風俗通(こうへんふうぞくつう)』があります。江戸時代の半ばには、すでに今の形が町のことばとして自然に使われていたのです。

表記についても、一つ気をつけたい点があります。今よく使う「美味しい」という書き方は、意味に合わせた分かりやすい表記ですが、この言葉が漢語の「美味」からそのままできたわけではありません。先に和語の「いし」「いしい」「おいしい」という流れがあり、あとから意味に合う漢字がよく用いられるようになったと考えるほうが、成り立ちに合っています。

また、今では「おいしい話」「おいしい仕事」のように、味以外にも、自分に都合がよく好ましいという意味で使われます。これは、食べて気持ちのよいものを表す意味から、「こちらにとって得で好ましい」という意味へ広がったものです。

美味しいの由来をまとめると、出発点は古い形容詞「いし」で、その中にあった「味がよい」という意味が、中世の「いしい」をへて、「お」を付けた「おいしい」になりました。今ではごくふつうの言葉ですが、その奥には、昔の宮中のことばづかいと、日本語の長い意味の変化が静かに重なっているのです。

主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『デジタル大辞泉』
・『弁内侍日記』
・『太平記』
・『後編風俗通』
・『世界大百科事典』

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