とじ【刀自】の語源・由来

とじ【刀自】は、古い日本語で、年上の女性や家のことを取りしきる女性を、敬いをこめて呼ぶ言い方です。今では日常語としてはあまり使いませんが、古典や古い名前の中にはよく現れます。とくに、家の主婦という意味だけでなく、女性への敬称として広く用いられたところに、この言葉の特色があります。

語の成り立ちについては、ふつう「戸主(とぬし)」の意味だと説明されます。つまり、家の内のことをつかさどる人、という理解です。そして「刀自」という漢字は、その意味に合わせて当てた字だとされます。

ただし、これで全部がすっかり説明できるかというと、少し慎重に見たほうがよい面もあります。戸主の意味と考える説は古くから有力ですが、音の移り方までふくめて完全に言い切るのはむずかしいとして、由来を不詳とする説明も残っています。

古い記録で早く確かめられる例の一つは、720年(養老4年・奈良時代)にできた『日本書紀(にほんしょき)』です。そこでは「戸母」に「覩自」と注が付けられており、この時代にすでに「とじ」という言い方が、家を預かる女性の呼び名として意識されていたことが分かります。

さらに、681年(天武天皇10年・飛鳥時代)の山名村碑には「黒売刀自」とあり、人名の下に付く尊称として使われています。ここからは、とじが単に家事をする人を表すだけでなく、女性を敬って呼ぶ言葉としても早くから働いていたことが読み取れます。

『万葉集(まんようしゅう)』にも、「母刀自」「妣刀自」のような形が見えます。こうした言い方では、母をうやまって呼ぶ気持ちがはっきり出ていて、とじが親しい女性への敬称として生きていたことがよく分かります。

このため、とじのもともとの広がりは、今の「主婦」という言葉よりずっと大きかったと考えられます。家の中の女主人に限らず、集まりや家筋の中で重んじられる女性、あるまとまりを取りしきる女性まで含んでいたらしいのです。古代の后妃(こうひ)の呼び名の一つである「夫人」も、和語ではオホトジと読まれました。

一方で、平安時代になると、年老いた女性を指す意味もはっきり見えるようになります。934年ごろ(承平4年ごろ・平安時代中期)の『十巻本和名抄(じっかんぼんわみょうしょう)』には、老母を表す古い語の説明にふれて、「刀自二字」をふだん使う形として記しています。ここから、当時すでに「老婦人」の意味も強く意識されていたことが分かります。

その後、とじは宮中や貴族の家で働く女性の呼び名にもなりました。『枕草子(まくらのそうし)』では台盤所(だいばんどころ)の刀自が見え、『栄花物語(えいがものがたり)』では宮々に仕える刀自が見えます。つまり、敬称としての広がりを保ちながら、役目の名としても使われるようになったのです。

読みについては、基本は「とじ」ですが、のちには「とうじ」と読む形も現れます。ただし、もとの形として中心にあるのは「とじ」であり、「刀自」は意味を写した漢字というより、和語に当てた表記として受け取るのが自然です。

この言葉の由来をまとめると、とじは古代の日本で、家や集まりの中で重んじられる女性を指した、たいへん古い呼び名です。一般には「戸主」の意味から説明され、家を取りしきる女性という理解が中心にありますが、早い時代から敬称としても広く使われ、後には老婦人や宮中の女官の呼び名にも広がりました。家の中の役目、女性への敬意、そして時代ごとの社会の姿が、一つの言葉の中に重なっているところに、とじ【刀自】という言葉のおもしろさがあります。

主な参考文献
・『精選版 日本国語大辞典』
・『デジタル大辞泉』
・『日本大百科全書(ニッポニカ)』
・『日本書紀』
・山名村碑
・『万葉集』
・『十巻本和名抄』
・『枕草子』
・『栄花物語』

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