ピーマンは、今では緑色の実を食べる身近な野菜の名として広く知られています。けれども、言葉の出どころをたどると、日本で生まれた音ではなく、ヨーロッパの言葉がもとになっています。
この名のもとは、フランス語の piment です。日本語ではふつう「ピーマン」と書きますが、もとの語が指していたのは、日本でいうピーマンだけではなく、もっと広くトウガラシの仲間全体でした。
フランス語では、辛いものも甘いものも、まとめて piment と呼ぶことがあります。とくに日本でいうピーマンのような辛くない大きなものは、piment doux、または poivron と呼ばれることが確かめられます。
つまり、日本語の「ピーマン」は、もとの言葉の意味をそのまま受けついだのではありません。トウガラシ全体を表す外国語が、日本語に入るときに、辛みのない甘味種を指す名として使われるようになったのです。
この野菜そのものは、植物の上ではトウガラシの仲間です。日本語の説明でも、甘味種の大きな系統を指すこと、また獅子唐辛子(ししとうがらし)も広い意味では同じ仲間に入ることが書かれています。
日本に辛いトウガラシが入ったのは16世紀(安土桃山時代ごろ)ですが、今のようなピーマンに当たる甘味種が伝わったのは明治時代です。しかも、家庭の食卓にまで広く行きわたったのは、1945年(昭和20年・昭和時代)以後だとされています。
この流れを見ると、言葉の定着のしかたもよく分かります。日本では先に辛いトウガラシが知られていて、その後から入ってきた西洋系の甘味種に、外国語に近い「ピーマン」という名があてられたため、区別しやすい呼び名として広まったのでしょう。
また、日本語には「ピメント」という近い形の外来語もあります。こちらもピーマンを指す言い方として辞書に見えますから、似た音の外来語がならんでいた中で、「ピーマン」の形が日常語として強く残ったこともうかがえます。
語のいちばん深いところまでたどると、フランス語 piment はスペイン語 pimiento にさかのぼり、さらにラテン語 pigmentum につながると説明されています。もとは「色をつけるもの」や「香辛料」を表した言葉が、長い時間をへて、香りや辛みのある植物の名へと結びついていったのです。
こうして見ると、ピーマンという名は、ただ野菜の名前であるだけではありません。遠い土地の「トウガラシ」という広い呼び名が、日本で「辛くないトウガラシ」の名として意味をしぼり、戦後の食生活の中でしっかり根づいた言葉だと分かります。
ふだん何気なく口にする「ピーマン」には、外国語の音、日本での作物の広まり方、そして言葉の意味が少しずつ変わる流れが、きれいに重なっています。語源を知ると、ありふれた野菜の名にも、長い旅のあとが残っていることに気づかされます。
主な参考文献
・『デジタル大辞泉』
・『百科事典マイペディア』
・『世界大百科事典』
・Dictionnaire de l’Académie française
・Centre national de ressources textuelles et lexicales
・『四季の野菜の健康と栄養―ピーマンとスイートコーン―』


































































































